持っているメイクブラシは2000本!ブロガーSonia G インタビュー
Published Oct 3, 2018
雪がつもるスイスの山に〈メイクブラシの聖地〉があるなんて、誰が想像できるだろう。でも、Sonia G.の「Brush Boudoir(ブラシの間)」を見れば、そんな考えは変わるのかもしれない。
スペインで生まれ育ち、現在ジュネーブ近郊のIT企業でシステム設計者としても活躍しているSoniaは、この数年間、日本の職人が一本一本手作りでつくるメイクブラシ(または 「筆」)の素晴らしさについて、自身のブログ「Sweet Makeup Temptations」に投稿しファンを増やし続けてきた。もちろん、彼女自身も2000本を超えるメイクブラシコレクションを持つほどのコレクターだ。
私たちは、Soniaの自宅を訪れ、手作りのメイクブラシに対するパッション、そして自慢のメイクブラシコレクションについて話を聞いた。最後に、彼女が自ら作ったメイクブラシ・ラインアップについても触れたいと思う。
スイスの生活は気に入っていますか?
私たちは、ジュネーブからそう遠くない山の中の小さなスキーリゾート街にある小さな家で暮らしています。冬の季節は大変なことも多いのですが、それ以上の魅力があるんです。例えば、毎日家から仕事場に出かける時は、まるで休暇を取って旅行にでも出かけるような気分になれますし。ご近所さんも良い人達ばかりで、とても平和に暮らしています。
どうしてメイクに興味を持ち始めたのですか?
1980年代に、初めてメイクに興味を持ち始めました。パールの光沢が入っている紫のリップスティックを何度も何度も買って使っていたんです!その当時私の肌はとても弱かったので、ファンデーションを塗ることができなくて。値段の高いスキンケア商品は手が出せなかったし、なかなか良いアイテムに出会えなかったのですが、10年前にやっと良い出会いがありました。そして、YouTubeを見るようになって・・・それはもう情報の宝庫でした!そこでWayne Gossを見つけたのが全てのはじまりです。
ブログ「Sweet Makeup Temptations」を始めようと思ったきっかけはなんですか?
私は、何かパッションを持っていることをしようとすると他が見えなくなってしまう性格で。本当に楽しくて夢中になりました。それで、同じようなことにパッションを感じている人たちとその楽しみを共有したくなったんです。もともと得意だったITの知識を活かしながらクリエイティブな活動ができるブログは、そんな私にとってピッタリの方法でした。
もう一つ、英語力を向上させるためにも良い方法だと思ったんです。私は、優秀なライターになることも写真家になることもできないけれど、私の書くレビューが少しでも誰かの役に立つのなら、それはすごく嬉しいこと。コメント欄や掲示板、ソーシャルメディアでの人と交流するのも本当に大好きです。この活動をするなかで、とても仲の良い友人と出会うこともできました。こんな素晴らしいきっかけをくれたことに感謝ですね。
メイクアップブラシに夢中になったきっかけはなんですか?
一本一本手作りでメイクブラシをつくる「職人の技」に惚れました。クオリティ、パフォーマンス全てが素晴らしく恋に落ちたんです。私は、決して裕福とは言えない家庭で育ちました。パン、石鹸、ワイン、お酒、野菜、必要なものはほぼ全て自分たちで作ったり、育てていました。まさに自給自足の生活です。本当に必要なものだけしか買うことはありませんでした。そんな私にとって、メイクブラシを作る様子は、まるで祖父の仕事姿を見ているようだったのです。幼い頃、いつも何かを作っている祖父の姿を隣に座って見ているのが大好きだったことを今でもよく覚えています。きっとこれが、私が「職人の技」を愛する大きな理由ですね。
『筆づくりの街』として知られる日本の熊野を何度か訪れていますね。最初に行ったときの感想を教えてください。
私が初めて熊野を訪れたのは2013年でした。目的はもちろん「筆の職人」に会うためです。彼らと少しでも日本語で話ができるように準備をしたのですが、いざ会ってみた途端に頭が真っ白に!その場にただ立ち尽くしてしまいました。
私は白鳳堂、晃祐堂、竹宝堂そして、丹精堂を訪問したのですが、職人の皆さんと直接話ができるなんて夢のようなことでした。彼らは、色々な場所を案内してくれて、日本の話や、仕事のこと、彼ら自身の話を私にしてくれました。今では、私とあの小さな街には特別なコネクションがあると信じています。あの街の友人たちは、まるでもうひとつ家族みたいな存在です。
熊野を訪れたことで、メイクブラシについての考えがどのように変わりましたか?
1つのブラシを作るために、これほど多くのステップを踏まなくてはいけないということに驚きを隠せませんでした。一つ一つの工程全てが職人さんの手によって行われていて・・・1日でどれだけの仕事量をこなせるのだろう、と思いました。でもそれと同時に、彼らが自分たちの仕事に対して誇りを持ち、本当に熱心に取り組み、心の底から楽しんでいることを知りました。この経験で私は、今まで以上にブラシ一本一本に感謝するようになりましたね。
自慢の「ブラシの間」について教えてください。どのくらいのコレクションを持っているのですか?
私たちは、この小さな家を少しずつリノベーションしながら暮らしています。「ブラシの間」は、私たちが最初に作り上げた部屋なんです。小さいけれど、私のオフィスでもあり、お化粧部屋でもあり、リラックスするための空間。友達が来たときには、この部屋でお喋りしながら時間を過ごすこともあります。明るくて楽しい、でも機能性も備えている空間にしたかったんです。
私のメイクブラシコレクションは・・・かなりの量だと思います。ブランドも異なれば、素材も異なるブラシを約2,000本は持っていますね。日本のブラシ以外のものもあります。私のメイクブラシ好きは周りの友人や家族みんなが知っているので、プレゼントとしてもらうこともあるんです。
こんなにたくさんのブラシをどうやって保管しているのですか?
キャビネットに飾ったり、引き出しの中に入れたり、あとはお化粧台にあるアクリルホルダーにも入れてあります。他のメイクアップアイテムと同じように、よく使うブラシは使いたい時にすぐに見つかるようにしておきたいんです。全てのブラシは、ブランドやシリーズに分けて保管してあります。これが、どのブラシがどこにあるかがすぐに分かる秘訣かもしれません。ブラシを買った時に入っていた箱を使って整理することもあります。そして、ほとんどのブラシをローテーションで使うことで、ブラシのコンディションを保つようにしています。
天然毛のブラシのケアについて、なにかヒントはありますか?
ブラシを使うこと、ですね。使うことが、良いコンディションを保つ秘訣なんです。毛質にもよりますが、デリケートなものはあまり洗い過ぎないことも大事です。私がメイクをするときは、近くに小さなタオルを置いて、違う色をとる時やメイクを終えた後などブラシを使う度にタオルで拭いています。
もう一つお薦めしたいのは、湿気の多い場所に置かないこと。乾燥している場所で保管してください。例えば、バスルームには置かない方が良いと思います。あとは優しく洗ったあとの濡れたブラシを乾かす時は、余計な水を取って形を整えてから干すこと。私が形を整える時は、ティッシュで毛の周りを巻いて乾かしています。
天然毛と合成毛で最も異なる点はなんですか?
天然毛が一番良いとは言えません。リキッドやクリームを使う時は、合成毛を好んで選びます。合成毛の方が使いやすくて、肌への馴染みも良いんです。そして素材が強いので洗っても傷みにくいことも嬉しい点ですね。
一方で、パウダー系のアイテムを使う時は、天然毛のブラシを使うことをおすすめします。ベタベタすることなく色を綺麗に取ってくれます。ビルドアップもしやすくてブレンディングも簡単にできますよ。合成毛のブラシでも、パウダーを綺麗に取ってくれるものがありますが、やっぱり私は天然毛を選びます。
ブラシを買う時に注意する点はなんですか?
画期的であるか、そして効率的であるかの2点です。新しい型に挑戦することが大好きなので美しいブラシと出会うことはとても嬉しいのですが、効率的でないと意味がありません。私は我慢強くもないし、プロのスキルもないから、ブラシを使った時に難しいスキル無しに素早く綺麗に使えるかどうかが重要なんです。
もちろん、クオリティに対する値段や、どこで作られたのかもチェックします。私は、量より質を重視するタイプ。以前 熊野で開催された 筆まつりへ足を運んだ時も本当に素晴らしい筆がたくさんあったのですが、コレクションのためだけに買うことはしませんでした。このとき私が唯一購入した筆は、見た途端に「なぜ、そしてどうやってこの筆を使うのか」が明確にイメージできたものだけでした。
自身のブラシ・コレクションがついに発売されましたね。どういったインスピレーションがあったのですか?
今この世界に存在しているメイクブラシとは違う何かを作りたかったんです。新しい型をデザインしたり、美しくて効率的なブラシを作ったり。結果だけでなく、そこに至るまでの経験を大事にしました。
ブログを始めて以来、たくさんの方から「こんな用途に使うならどのブラシが良い?」という質問をたくさんいただいてきました。でもそのとき、私の頭のなかにすぐに思い浮かべられるブラシがなくて、探しても見つからなかったんです。だから、そのブランク(空白)を埋めようと思ったんです。
私の夢は、クリエイティビティを掻き立てて、ルーチンを壊すこと。
もしかしたら、使っていても楽しくないと思う商品があるかもしれない。もしかしたら、メイクをすることが楽しいと思えない人がいるかもしれない。私はそれを変えたいんです。朝起きてメイクをする。この時間をもっと期待あふれる楽しい瞬間にしたいと思っています。